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                       桜の時間
 

 ―季節は蝉の鳴く夏から蟋蟀の鈴の音が響く秋へ―

 そんな季節が移りゆく時期に私はこの田舎に転校した。
 私が今度から通う事になる文月市高等学校と呼ばれるその高校には、以前まで通っていた高校にはなかった砂利の校庭裏山。壁際に咲いてる自然の花など、コンクリートで埋め尽くされた無機質な世界とは何もかもが違っていた。
 でもそれを嫌と思うことはなかった。
 別に都会が好きでもなかったし、特別な思い出もあるわけでもなかったから。
 ただ・・・・・・もう縛られるのだけは嫌だった。
 

 

 今は全校集会の時間らしく校内で生徒を見かけることなかった。
 職員室に行く約束の時間まではまだ時間があったので、私は校内を見学しつつ自分の教室を見に行くことにした。
 自分の教室の前に立ち、一応誰もいないことを確認し、そおーっと教室の中に入
 意外と教室の中は机の数が少ないせいか結構広く感じ。日当たりも良くとても居心地が良さそうなそんなことを考えていたとき、突然私の後ろのドアが開いた。
 「よしゃ、誰もいない」
 私とその人の目が合うのは殆んど同時だった。
 誰もいないはずの教室でみたことがない生徒がいる。そう思うのがその瞬間の正しい反応だろう。
 と私は冷静を装いながら内心ではその場をどう乗り切るかだけを一生懸命考えていた。
 多分、相手も同じなのだろう。
 互いに一言もない沈黙が一瞬だけどもその場の空気を止めた。
 「はっ、初めまして・・・・・・
 私はなんとかその空気を溶くためにその人に向けて挨拶をした。
 「あっ、・・・・・・初めまして」
 その人もつられてなのか私の挨拶へ返してくれた。
 なんとか溶けた空気になったのも一瞬で、その場にいるのがまるでいけないことのように感じてしまい、私はその人にお辞儀をし教室から駆け足で出て行った。
 ・・・・・・向こうからみたら間違いなく不審者だと思われたかな
 初日にクラスメイトの人にそう思われるのは余り良くないとは思ったけどでも、過ぎた事を気にするのは自分の生に合わないのであまり深く考えないことにした。
 
 教室で挨拶を終えると、みんな拍手をしたりよろしくなどの声をかけてくれたりと私を暖かく迎えてくれた。
 多分転校生だから気を使ってくれてるんだろうなと思いながら、担任に指定された机に着くことにする。
 私の席はよくある典型的なパターンと一緒で窓際の一番後ろになった。朝挨拶した  人は私の机から一番離れた通路側の先頭に座っていた。
 『坂田晃』
 私の自己紹介と一緒にクラスのみんなも自己紹介をしてくれた。

 その時に覚えた名前。

 多分衝撃的な出会いのせいだろう。彼の名前だけは一瞬で覚えることが出来た。
 私は人の名前を覚えるのは苦手だ。、何度の名前を口に出さないと忘れてしまう。
 だからほんとに私にとってどうでもいい人は名前すら覚えられないという酷い性格だと今は身に染みている。
 そんな彼の名前もただそのお陰で覚えられたのだと思っていた。
 
 それから週間後。あの放課後を迎えるまでは―

 

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