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 「というわけでどうしよっか?

そう言いだしたのは見た目幼女のカメラ女子高生、宮瀬春海だった。

 「まあどうするもこの雨の中で撮るのはちょっとね

 撮影場所は校内の紅葉並木の道に決定していた。しかし、窓の外には朝から降り出した雨が止むことなく私達の行動を遮っていた。

 その状況が悔しいのだろう。春海はため息をつきながら雨で暗くなった外を見つめている。

 まあいくら傘をさして撮ると言っても雨に濡れることが解りきっている状況を好き好んで撮る人はいない。私も乗り気はあっただけにちょっと残念ではあるが、流石に雨の中は仕方がない。なんて思っていた私の隣で―

 「せっかくのチャンスなのに風が無いんだよね」

 ―と、私の考えと一致しない言葉が聞こえた気がした。

 ・・・・・・風?」

 聞き間違いだろうと思った私は確認のつもりで聞き返してしまったが・・・・・・

 「そう。風!!せっかく最高のスチュエーションなのに風が吹かないとイメージとだいぶ変わっちゃうんだ!!

 その言葉は確信に変わってしまった。

 「いや・・・・・・待って。最高って意味が分からないし」

 私はその言葉に反し、別に明日の放課後でもいいじゃないの春海に問うと

 「今日じゃなきゃ駄目なの!!

 どうやら春海は天気予報をチェックして今日のこの天候を写真に収めること決めていたらしい。

 いやいや、そんなの知っていたら絶対にOKを出さなかったのに。という前に私の方もチェックしとくんだった・・・・・・

 ねえ。別に動画じゃないんだから天候は気にしなくていいんじゃないの

 そんな私の質問も春海の前ではあっさりと否定されてしまった。

 私は写真に詳しくないからあまり分からないけど春海からすればその一時は一瞬で通り過ぎてしまうもので、その一瞬をどれだけ見た人の記憶として残せるか。写真でしか伝わらないようなものを残したい」・・・・・・ということらしい。

 「この季節での雨に、落ち葉。そしてそこに風が吹く一瞬に物語が生まれるの!!

 それからほんの少し、春海は目をせながら私と花菜に熱弁を振い始めた

 花菜は春海と中学からの友達なのか、また始まっちゃった。と言葉にしなくても分かるぐらい苦笑いを浮かべながら春海の話を聞き入り始めその横でまさかここまで熱血なカメラっ娘だと思ってもいなかった私は若干一歩下がった感じで引いていた。

 そんな私も、お構いなく話す春海の一つ一つの言動に頷いたり、笑ったりしている花菜の姿を見ている内に、とても新鮮な感じがして一切気持ち悪いとかそんな嫌いなことは無く、都会に居た頃の上辺だけの付き合いなんかでは絶対に生まれない気持ちがこの二人を見てると私の中にあること正直嬉しく思ってしまった。

 「わかったよ。やっぱモデル受けてあげる」

 んな気持ちがそう言ったのか、その言葉を聞いた春海は目を輝かせ私に抱き着き、花菜は優しい笑みを浮かべ私達二人を見つめていた。

 

 

 教室から出た私達人は傘を差し学校の通学路の前に来ていた。

辺りは夕が落ち始め、グラウンドの照明が雨に濡れてる校庭を照らし始めていた。

 私は春海に言われた通りに指定された場所に立ちポーズをとり、春海は花菜に傘を差してもらいながらカメラを私に向けシャッターを切っていた。春海の注文はあくまでも自然体な風景を撮るということなので私は指定された場所に立つ以外は春海からの注文は一切無かった。

 でもその度に、自分でポーズを考えなければならないのでこれは結構難しいものがあった。

 部活が終わる時間帯になり、学校に残ってた生徒達が私達の横を下校してい

 春海もそろそろ撮影を終わる頃だなと考えていたその春海が腕をこちらに向けて大きく手を振っていた。どうやら終わる合図らしく、私は小走りで春海達の方へ向かった。

  「さすがにもう終わりだね。良い写真撮れた?」

 「うん。ばっちし。でも後ちょい撮りたい写真があるんだけど・・・・・・良い?」

 どんな写真?と私は聞くと、春海は実に勿体ぶる様な態度をし、下校する生徒達をちらほらと見始めた。

 そして一人の人に手を振り声をかけに行った。

 ちょっと息を切らせながら戻ってきた春海は満面の笑みで私の前に彼を紹介した。

 「ご紹介しよう。坂田晃君です」

 ・・・・・・いや、声をかけに行った時点で誰なのか分かってはいたけど、どうして坂田君なの?

  「あっきーはね、小学から腐れ縁な親友で、私の良き理解者なの」

 つまり、よく言う幼馴染というやつらしい。というのは分かったけどだからどうして坂田君が呼ばれたの?

 「写真のモデルを今からお願いしたの。どうしてもセットで撮りたいから」

 「セット?」

 「うん。綾ちゃんとあっきーで恋人の役をしてこの雨の中の写真を収めたいの!!

 この時、私の思考は完全に脳の計算処理が追いついてない状態で、二、三秒かけその言葉の答えを導き出した。

 ・・・・・・はいっ!? 何を言っているの!!そんなの、坂田君が迷惑でしょ

 なぜか“恋人”という言葉に動揺してしまい、すかさず普通に振舞ってみたものの

 「それは大丈夫よ。あっきーは私の理解者だし、もうOK貰ったし」

 私の事なんかお構いなく話を決めてた。

 「いやっ、そうは言っても・・・・・・ぅぅ」

 なんとか気付かれない様に上手く振舞っていたつもりだったが、どうやらバレバレだったらしくそんな私の慌てぶりに気付いた春海が

 「んじゃ綾はあっきーの事が嫌いなのかな?」

 と、私をからかい始めてきた。

 「別に・・・・・・嫌いじゃないけど」

 なんで私はこんなに動揺しているのだろう。

 少し離れた所に花菜と一緒に立っている坂田君を見た。その視線に坂田君は気付いたらしく、にこっと笑顔を返してくれた。

 一瞬、胸の奥がズキッと痛む感覚が走った。なんだろう・・・・・・この感覚は?

 「んじゃなにも問題無し。さあ最後の写真を撮っちゃうよ」

 私が黙っているのを反対する意思はないと判断したのか、春海はそのままカメラを持ち直して私と坂田君に校門前に立っている木の下に並ばせた。

 でも突然恋人同士なんて高校生の二人には凄くハードルが高いわけで、私は妙な緊張感に覆われていた。三十秒ぐらい経ったろうか。その沈黙を掻き消すように坂田君の方から右手を差し出してくれた。

 その手を見ながら私は、流石はバスケ部ムードメイカ―だけあってこういうのに慣れているんだなっと、目線を彼の顔に移した。

 彼の顔とても気取っているようには見えない緊張した表情をしていた。

 どうやら緊張していたのは私だけじゃなかったらしい。

 その事が分かった瞬間、私を包んでいた緊張はほどけ自然と彼の右手に私の左手を重ねていた。

 私達の後ろではその行動を逃すまいと春海は活き良いよくシャッターを切り、花菜は微笑みながらその光景を眺めていた。

 強く降っていた雨は撮影が終わる頃には弱まり始め、あれだけ雨で沈んでいた私の気持ちは何処かへ行ってしまっていた。

 

 終わってみればほんの少しだけど・・・・・・雨の日が好きになれるようなそんな特別な放課後に変わっていた。

 

 

第一章 完



 

 

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